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これまでの研究と今後の展望

私はこれまでに、頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)において特異的に発現するがん関連遺伝子の検索からDKK3を同定しました。DKK3の機能解析では、


 (1) DKK3発現はHNSCCや食道癌などの限られた一部 

      のがんにのみ見られること

 (2) HNSCCではDKK3発現があると予後不良となること

 (3) HNSCC細胞でDKK3を過剰発現させると、Aktの

      活性化を通じて腫瘍細胞の増殖、浸潤、遊走はすべ  

   て有意に増加するが、DKK3をノックダウンすると  

      Aktの活性化も腫瘍細胞の増殖、浸潤、遊走も全て

      が有意に減少すること

 (4) HNSCC細胞にDKK3や、その受容体として機能する

      CKAP4に対する抗体を作用させると腫瘍細胞の増

      殖、浸潤、遊走を有意に抑制できること

を明らかにしてきました。DKK3はHNSCCで特異的にがんの進展を促進しており、これを標的とした治療法の開発が可能であることが強く示唆されています。

そこでDKK3の機能ドメインを阻害する相補性ペプチドを開発し、実用化に向けた研究を行っています。

 

また、一方でBioinformaticsの技術を習得したことで、TCGA等の公共データベースに保存されているRNA-seqのビッグデータから腫瘍に特異的な標的分子をDifferentially Expressed Genes (DEGs)として抽出することが可能になりました。

計画4.jpg

このBioinformaticsと遺伝子機能解析を組み合わせることで「あらゆる疾患に対して標的分子の同定からその阻害物質の合成までをseamlessに一人で実現可能」な状態を実現できたと考えています。

今後は、まずは実現可能性が高いHNSCCに対する新規薬剤の開発を優先的に進めるとともに、挑戦的・野心的な目標として有効な治療法のない難治性がんの創薬を目指していきます。

 

また近年、DKK3の多機能性が明らかになりつつあります。(2024.03.06 追記)

 

【DKK3と腎疾患】

  ・DKK3 発現は常染色体優性多発性嚢胞腎のマーカーとなる(Arjune S et al., Clin Kidney J. 2023)

  ・血清中のDKK3の発現量は急性腎障害や慢性腎障害のマーカーとなる

  (Porschen C et al., Curr Opin Crit Care. 2023, Dziamałek-Macioszczyk P et al., J Clin Med. 2023,

           Speer T et al., Lancet Child Adolesc Health. 2023, Xing H et al., Int Urol Nephrol. 2023)

【DKK3とアルツハイマー病】

  ・DKK3はアルツハイマー病で高発現を示す(Kavoosi S et al., J Alzheimers Dis. 2024)

  ・アルツハイマー病モデルマウスでDKK3を抑制すると症状が改善される (Martin Flores N et al., Elife. 2024)

  ・DKK3はアルツハイマー病のアミロイドβと相互作用する

         (Mouillet-Richard S et al., Oncogene. 2022, Zhang L et al., J Alzheimers Dis. 2017,
         Bruggink KA et al., J Neurochem. 2015)

DKK3相補性ペプチドはこれらの疾患の治療にも有効である可能性があります。

今後は研究対象を腫瘍以外にも広げ、DKK3を中心とした生命現象のさらなる理解と、治療法開発をめざした
研究を推進
して参ります。
 

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